Mythic(ミシック)とは?“アナログAI”で挑む次世代アクセラレータの可能性

低消費電力×リアルタイム処理の新戦力、その仕組みと注目理由をやさしく解説

生成AIやIoTの進化に伴い、膨大なデータをリアルタイムで処理する「AIアクセラレータ」が注目されています。
この分野ではGPUやNPUといったデジタルチップが主流ですが、今、新たな切り口から業界に挑戦しているのが、アナログ演算技術を活用するスタートアップMythic(ミシック)です。

Mythicは、メモリ内演算(In-Memory Compute)を用いた“アナログAI”という独自のアプローチで、エッジAIや組み込みデバイス向けのチップ市場に革新をもたらしています。
本記事では、Mythicの企業背景、チップの技術的特長、競合他社との違い、将来的な可能性までをわかりやすく解説します。


Mythicとはどんな企業か?

AIアクセラレータ分野の革新を狙うスタートアップ

Mythicは、2012年に米国カリフォルニア州レッドウッドシティで設立されたAI半導体スタートアップです。
創業者のマイク・ヘンリー(Mike Henry)氏は、AIソフトウェアと半導体設計の両面に深い知見を持ち、「AI処理はGPUよりもっと適した方法がある」という発想からスタートしました。

設立当初から「メモリ内で直接演算を行う」In-Memory Computeという技術を基盤に研究を重ね、GPUやTPUに依存しない新しいAIチップの形を追求してきました。

大手投資家による強力な支援体制

Mythicは数回にわたる資金調達ラウンドを経て、Intel CapitalやSoftBank Ventures Asia、DFJ(Draper Fisher Jurvetson)などから多額の出資を受けています。
これにより、研究開発だけでなく、生産体制の確立やマーケティング戦略にも本格的に取り組める体制を整えています。

現在は主にエッジAIやIoT機器向けのチップ市場に照準を合わせており、「小型かつ高効率で、クラウドに依存しないAI」を実現するキープレイヤーとして注目されています。


なぜアナログAIなのか?注目される理由

デジタル演算の壁を乗り越える新アプローチ

従来のAI処理は、主にGPUなどのデジタル回路を用いて行われています。
これらは処理速度が速く、高精度な演算が可能ですが、電力消費が大きいことや、演算装置とメモリの間のデータ転送による遅延・エネルギーロスが課題となっていました。

Mythicはこの課題に対し、「そもそもデータを移動させなければいいのでは?」という逆転の発想から、メモリ自体が演算装置となる構造を採用しました。

メモリ内演算(In-Memory Compute)とは?

仕組みの概要

Mythicのチップでは、デジタル信号ではなく、アナログ電圧の強弱を使って計算を行います。
これにより、トランジスタを大量に用いた演算処理ではなく、メモリ素子内で直接、加算や乗算などのAI推論処理が可能になります。

この仕組みのメリット

  • データの移動が発生しないため演算スピードが速い
  • 不必要なデータ転送がないため消費電力が極めて低い
  • 必要な回路面積が少なく、小型化にも適している

この技術は、特にスマートホーム機器や監視カメラ、産業用ロボットといった「エッジ側で即時にAI処理が求められる用途」に理想的とされています。

Mythicの主力製品と技術の特徴

Mythic M1076 AMPの概要

Mythicが展開する主力製品は「Mythic M1076 AMP」というエッジAIチップです。
このチップは、108基のアナログ演算コアを搭載し、最大で**毎秒25TOPS(Tera Operations Per Second)**の処理性能を実現しています。

消費電力はわずか数ワット程度に抑えられており、バッテリー駆動の機器でも動作可能です。
加えて、フォームファクタ(外形サイズ)が非常にコンパクトなため、ドローンやセンサー、ロボットなど、サイズ制限のあるデバイスにも容易に組み込めます。

この性能と省エネ性のバランスこそが、Mythic製品の最大の魅力です。

フラッシュメモリベースのアナログ演算

技術の中核にある「Flash Compute-in-Memory」

Mythicのチップは、フラッシュメモリを演算装置として活用する「Compute-in-Memory」アーキテクチャを採用しています。
通常、演算とメモリは別々の役割を持ち、データのやりとりに時間とエネルギーを要します。

しかしMythicでは、フラッシュセルに保存された重みを、アナログ電圧で直接処理することにより、演算をメモリ内部で完結させています。

得られる3つのメリット

  1. 大幅な省電力化(数ワット未満で推論処理が可能)
  2. 演算スピードの向上(メモリバスの待ち時間が不要)
  3. 発熱の抑制・冷却装置不要(ファンレス設計も実現可能)

この技術によって、Mythicはクラウドに頼らずリアルタイム処理が可能なAIチップという新たな市場価値を生み出しました。


エッジAI分野での活用事例と展望

クラウドに頼らず“その場で判断するAI”へ

Mythicのチップは、いわゆる「クラウドAI」ではなく、「エッジAI(端末側AI)」向けに設計されています。
これにより、通信遅延やセキュリティリスクを回避しつつ、リアルタイムに判断が求められるシーンでの利用が進んでいます。

具体的な活用シーンと分野

ドローン・監視カメラ・ロボティクス

  • 低電力かつリアルタイムに画像認識・物体検知が可能
  • ネット接続不要のため、通信不安定な場所でも動作

工場・製造ラインの自動化

  • 生産設備にAIを組み込み、異常検知や欠陥品の自動識別が可能
  • センサーベースで判断を下すため、人的コスト削減に貢献

医療・ヘルスケア分野

  • ウェアラブル機器や診断機器に搭載し、身体データを即座に処理
  • クラウドへのデータ送信を減らすことで、プライバシー保護にもつながる

Mythicの強みと今後の課題

Mythicの明確な強み

  • アナログ演算による圧倒的な省電力性
  • データ移動不要の構造により高速処理が可能
  • 小型・軽量化に優れ、組み込み機器との親和性が高い

これらの特徴により、Mythicは“使いやすく、どこにでも載せられるAIチップ”としてエッジAI市場に独自のポジションを築いています。

今後の技術的・市場的な課題

アナログ演算ならではの課題

  • 高精度な演算が苦手(ノイズや温度による影響)
  • 計算結果にわずかなばらつきが生じる可能性あり

製造と量産体制の確立

  • 特殊なアナログ構造により製造歩留まりが安定しづらい
  • 設計のカスタマイズ性が低く、他用途展開に制約がある

大規模AIモデルとの適合性

  • エッジ向けには最適だが、ChatGPTのような巨大モデルの学習・推論には不向き
  • 今後は「用途特化型アクセラレータ」としての戦略が重要

他社との比較|Groq・Tenstorrent・Cerebrasとの違い

主なAIアクセラレータ企業との比較表(Markdown対応)

企業名技術のしくみ特徴主な用途
Mythicメモリの中でそのまま計算できる
アナログ方式 ※1
超省電力、小型、リアルタイム処理に強いエッジAI ※5、IoT機器
Groq少ない命令で、大量の処理を一気にこなす構造 ※2超高速推論、反応が速い大規模AI推論(生成AIなど)
Tenstorrent柔軟に拡張できる省エネ型チップ構造 ※3幅広い用途に柔軟に対応サーバ〜エッジ両対応 ※6
Cerebras半導体1枚まるごと使った巨大チップ ※4AI学習に特化、大型モデルも処理可能研究用途、生成AI開発など

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※表の中で出てきた用語に、ちょっとだけ補足をつけています。
気になった言葉があったら、ご確認ください。

  • ※1:Mythicは、フラッシュメモリの中でAIの計算を“直接”行える仕組みを採用。通常別々の演算と記憶が、同じ場所で完結するため、非常に省電力でスピーディーです。
  • ※2:Groqは、処理をスピード重視で並列に動かせるよう、命令をあえてシンプルに設計。その分だけ大量の処理を同時にこなせるため、生成AIの推論に向いています。
  • ※3:Tenstorrentは「RISC-V」という自由に設計できるチップをベースにしていて、あとから性能を拡張しやすいのが特長。使い道に合わせたカスタマイズが可能です。
  • ※4:Cerebrasは、普通は分割して使う半導体の板を、1枚まるごと1個のチップとして使っています。これにより、ChatGPTのような巨大AIの“学習”処理にも対応できます。
  • ※5:エッジAIとは、クラウド(インターネット上のサーバー)ではなく、スマホやセンサーなど身近な機器の中でAIを動かす技術のこと。たとえば、ドローンや監視カメラがその場で映像を分析するような場面に使われます。
  • ※6:サーバ〜エッジ両対応とは、クラウド上の大規模なAI処理から、端末側での軽量な処理まで、幅広い環境で使える設計を意味します。つまり、1つのチップ設計でいろんな用途に対応できる柔軟性がある、ということです。

まとめ|アナログAIが切り拓く未来とは?

Mythicは、従来のデジタル回路によるAI処理に一石を投じる「アナログAIチップ」という選択肢を提示しました。
特に、リアルタイム性と省エネルギー性が求められるエッジAI市場においては、代替のない存在といえるでしょう。

アナログ演算ゆえの課題もあるものの、そのユニークなアーキテクチャは、組み込みAIの在り方そのものを変える可能性を秘めています。
今後もMythicの動向には、AIと半導体の未来を読み解く上で注目していく価値があるでしょう。

次回予告|「Groq LPUとは?生成AI時代の“推論処理専用チップ”を徹底解説」

AIアクセラレータには、Mythicのようなエッジ特化型の他にも、クラウド環境で超高速処理を実現する製品があります。
次回は、Googleの元設計者が率いる注目企業「Groq(グロック)」の技術と戦略に迫ります。
生成AI時代に求められる“超低レイテンシ”なAI処理の正体とは?その独自性を詳しく解説します。

「Groqとは?生成AIに最適化された“超高速AIチップ”の正体」

✅ 参考URL  

サイト名URL用途最終アクセス日
Mythic公式サイトhttps://www.mythic-ai.com/企業概要・製品情報の把握2025年5月18日
TechCrunch記事(Mythic資金調達)https://techcrunch.com/2021/05/04/mythic-series-c/出資状況の参考2025年5月18日
VentureBeat記事https://venturebeat.com/ai/mythic-raises-70m-to-scale-analog-ai/技術背景と市場展開の補足2025年5月18日
Cerebras公式https://www.cerebras.net/他社比較用(大規模学習)2025年5月18日
Tenstorrent公式https://tenstorrent.com/他社比較用(RISC-Vチップ)2025年5月18日

※リンクは、削除、変更される場合があります。

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