ラピダスはなぜ政府に支援されるのか?経済安全保障と国家戦略の真実

ラピダスという名前を、最近よく耳にするようになりました。
日本が半導体で再び世界に挑む──そんな大きなプロジェクトの中心にあるこの企業に、なぜ日本政府はここまで大規模な支援を行っているのでしょうか?

この記事では、ラピダスに対する政府の支援の背景にある戦略、そしてそれが私たちの未来にどうつながっていくのかを、やさしく、ていねいにひも解いていきます。

1. 日本政府がラピダスを支援する本当の理由

ラピダスへの政府支援について、「なぜこんなに?」と驚かれた方もいるかもしれません。2024年時点で累計9200億円以上の支援が決定しており、追加分も含めると総額1兆円規模の国家プロジェクトとなっています。その手厚さは異例とも言われています。

しかしこの支援は、単に「企業を育てるため」だけのものではありません。もっと広く、深く、日本の未来に関わる背景があるのです。

まず大きな理由のひとつが「経済安全保障」です。
半導体は、今や生活インフラや防衛、AI、交通、医療などあらゆる分野の“基盤”を支える存在となっています。たとえば、自動車1台には1000個以上の半導体が使われるとも言われており、これが不足すると製造自体が止まってしまうこともあります。世界的な半導体不足が起きたコロナ禍以降、「自国での安定供給」の重要性が一気に高まりました。

こうした背景から、日本政府は「国として半導体の製造基盤を取り戻す」ことを、明確な国家戦略に掲げました。その柱のひとつが、最先端チップの国内生産を目指すラピダスです。

もうひとつの理由が、技術主権の確保です。
半導体の設計や製造の中心は、これまで米国・台湾・韓国・中国に集中していました。技術的な依存が進むと、外交関係や輸出規制などによって国内産業が脅かされるリスクも高まります。ラピダスのような新興企業に対して早期から国が支援することで、「設計から製造まで自国で完結できる体制」を整えることが、今後の国際競争力にもつながるのです。

加えて、アメリカとの連携強化という視点もあります。
ラピダスはアメリカ発のAIチップ企業「テンストレント」とも提携しており、こうした国際共同プロジェクトを通じて、経済だけでなく安全保障面でも日米協力の枠組みが広がっています。

「国防」や「安全保障」というと少し構えてしまうかもしれませんが、実はその根底には、「日本の暮らしを支え、守る」ための動きがあることも、知っておいて損はないはずです。

2.なぜここまで深く関与しているのか?

ラピダスに対する日本政府の関与は、単なる補助金や制度支援にとどまりません。技術開発の方針、研究機関との連携、さらには米国との協調関係まで──まさに「国家プロジェクト」として進められています。

では、なぜそこまで深く関わっているのでしょうか?

ひとつは、過去の反省があります。
日本はかつて世界を席巻していた半導体産業を、技術の転換点で一気に後退させてしまいました。国としての産業政策が後手に回り、民間の競争力に頼りきっていたことで、台湾・韓国・米国などの台頭を止められなかった――その記憶が、官僚や経済産業省の中には強く残っています。

もうひとつの理由は、単なる「技術開発」では終わらない領域だからです。
最先端の半導体は、もはや国の基盤そのものです。自動車、スマート家電、5G通信、AI、宇宙開発…どれもが、精密な半導体技術なしには成り立たない。
それはつまり、「民間任せにしてしまうと、国が“動かなくなる”リスクすらある」ということ。

ここまで国家が深く関わるのは、民間の一企業として育てるのではなく、“新しいインフラ”をつくる感覚に近いのかもしれません。
発電所や空港、海底ケーブルのように、社会の土台になるものだからこそ、「国として方向性を示す」「失敗できない」という意識が働いているのです。

こうした視点で見ると、ラピダスへの関与は、企業支援ではなく、未来基盤の整備という国家的な“設備投資”とも言えるのかもしれません。

3. 政府がここまで支援した他のプロジェクト事例

ラピダスのように、国がここまで大きな支援を行っているケースは非常に限られています。
でも実は近年、国の資金と戦略を注ぎ込んで育てようとしているプロジェクトは、他にもいくつかあるのです。

たとえば、熊本に建設中の「TSMC(台湾セミコンダクター・マニュファクチャリング・カンパニー)」の工場。
ここには総額で1兆円以上のプロジェクト資金が投じられ、日本政府もその半分以上を補助金で支援しています。目的は、国内での半導体供給力を強化し、海外依存を減らすこと。

また、水素や再生可能エネルギー分野でも、「官民連携」の名のもとに巨額の投資が動いています。
たとえば、水素エネルギーを社会インフラとして本格導入する計画「グリーンイノベーション基金」では、2兆円規模の支援枠が設けられました。

さらに、宇宙産業に関しても政府の動きが加速しています。
JAXAだけでなく、民間の小型ロケット企業「インターステラテクノロジズ」などへの支援も増えており、宇宙を“新しい経済圏”ととらえた政策が進行中です。

これらの事例に共通しているのは、「国として未来の産業インフラを自前で持ちたい」という意思。
つまりラピダスへの支援も、その流れの中にある国家戦略の一環なのです。

4.ラピダスは“第二のH2Aロケット”になるのか?

国が大きな予算と意志を注いで進めてきたプロジェクトには、これまでにもさまざまな例があります。
その中でも、特に思い出されるのが「H2Aロケット」の挑戦です。

H2Aは、日本が独自に開発した大型ロケットで、2001年に初打ち上げされました。当初は多くの技術課題を抱えており、打ち上げ失敗も経験しました。しかし、政府と民間が根気強く改良を重ね、やがて世界屈指の成功率を誇る信頼性の高いロケットへと成長。
現在では、衛星打ち上げビジネスでも注目され、日本の宇宙産業を支える基盤となっています。

ラピダスの歩みは、どこかこのH2Aと重なる部分があります。

たとえば、開発初期段階での“失敗できない”という重圧
国家戦略として掲げられている以上、技術的にも資金的にも大きなハードルを乗り越えなければならない。
そして、そこに求められるのは単なる成功ではなく、「世界に通用する競争力を持った完成形」です。

もうひとつ、共通点があるとすれば、それは民間では担いきれない重責です。
H2Aのような基幹技術は、収益化までの道のりが長く、すぐにビジネスとして成り立つわけではありません。
それでも国が主導して支え続けたからこそ、やがて世界レベルにまで育ったのです。

ラピダスもまた、すぐに答えが出るプロジェクトではありません。
ですが、仮に10年後、20年後に“日本が世界と張り合える半導体製造力”を取り戻していたとしたら──
そのきっかけは、間違いなくこの支援と、今の挑戦にあったと振り返られるはずです。

まとめ・読者への問い

ラピダスという企業の挑戦は、単に「日本の半導体産業の復活」を意味するものではありません。
その背景には、これまで私たちが見過ごしてきた「ものづくりの本質」や、「未来に何を残したいか」という問いが込められています。

これまでの記事で見てきたように、日本政府は過去の失敗を踏まえながら、国家戦略としてラピダスを支援しています。
その姿勢には、経済安全保障・技術主権・国際競争・地方創生といった、複雑に絡み合う要素が詰まっています。

一方で、国が支援するからといって、すべてがうまくいくとは限りません。
失敗も、回り道も、試行錯誤もきっとあるはずです。
それでも、目指すのは「世界と対等に戦える技術を、日本の中から育てること」。

それは、未来を見据えた“国としての選択”であり、
もっと言えば、**「次の世代にどんな国を手渡したいか」**という問いかけでもあります。

この記事を読み終えたあなたが、もし少しでもラピダスの存在に興味を持ち、
日本の未来に対して前向きな視点を感じてくださったなら──
この文章には、小さな価値があったのかもしれません。

次回予告|「ラピダスにかける“国家戦略”の真意とは?」

ラピダスが、なぜここまで政府に支えられているのか──
その背景には、日本という国が“何を失い、何を取り戻そうとしているのか”という深いテーマが見えてきます。

次回は、かつて日本が世界を席巻していた半導体産業が、
なぜ衰退してしまったのか?
そして台湾・韓国・米国はそこから何を学び、どう活かしたのか?
「過去から未来へのヒント」を探る記事をお届けします。

【参考リンク・資料一覧】

– 経済産業省|ラピダスに対する支援・交付金について 

中谷経済産業副大臣は、チリのパルドウ・エネルギー大臣とエネルギートランジションに関する協力覚書に署名しました (METI/経済産業省)

– 日本経済新聞|ラピダスに5600億円支援へ 政府、半導体生産を後押し 

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA043XH0U4A100C2000000

– 内閣官房|経済安全保障の推進(半導体の国家戦略) 

お探しのページが見つかりませんでした。|内閣官房ホームページ
内閣官房ホームページのプライバシーポリシーを掲載しています。

– NHK解説記事|半導体が足りない!? その背景と国の対策 

エピソード - みみより!解説
「みみより!解説」のこれまでのエピソード一覧です。

– Tenstorrent公式|Rapidusとの業務提携に関するプレスリリース 

404: This page could not be found.

日本経済新聞|政府、ラピダスに追加で5600億円支援へ(支援総額9200億円規模に)
📎 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA043XH0U4A100C2000000/

経済産業省|先端半導体の開発・量産化に向けた支援(ラピダス関連)
📎 https://www.meti.go.jp/press/2023/04/20230428004/20230428004.html

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